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山行記録

北アルプス 南部 槍ケ岳 2019/05/03-05

槍ケ岳1
↑槍の穂先の下に着いた!  (2019年5月4日撮影)

(S内記)
令和元年を祝し、10連休というかつてない大型連休となったゴールディンウィーク後半、理由はわからないが上高地押しのS藤さんの計画に便乗し槍ヶ岳登頂を目指す。 下山後に本人も「そういえばどうして今回槍ヶ岳だったんだっけ」などと言っていたのでもはや理由なんてないようなもの。私が例会で、移動に時間を要する南アルプスか立山などがいいと何度も言っていたことはすっかり忘れているようだ。 たむしば山の会に入会して早1年半、今シーズンに雪山を始めてまだアイゼンを履いての足元はおぼつかない。昨シーズン直前に湯たんぽで低温やけどをしてしまい、雪山装備に大金を費やしたにも関わらず雪靴を履けない足となり、会員の楽しそうな雪山登山に指を銜えて見ることしか出来なかった。今は雪の上を歩くのが楽しくて仕方がない。槍ヶ岳に関する知識や特別な思い入れなどはなかったが、この時期にまだ雪の上を歩ける場所があるならどこへでも行きたかった。

5月3日(快晴) 上高地バスターミナル(12:20)―横尾(15:05)―槍沢ロッヂ(17:05)  

 新宿7時発の特急あずさに乗り、松本から電車とバスを乗り継ぎ上高地へ向かう。途中、槍沢ロッヂへの宿泊予約の際に16時には小屋に着いてくださいと言われたので、それは出来ないけれども17時頃行きますと伝えた手前、一刻も早く上高地に着いて歩き出したい。大型連休でバスがフル稼働しているせいなのか、1台目のリムジンバスには乗れず、2台目に用意されていたのはよく街を走っている普通のバス。乗り物酔いをし易い質なので酔わないことを祈りつつ乗車。ほぼ定刻通りに上高地バスターミナルに到着し、急いで準備を整えて今夜の宿、槍沢ロッヂを目指す。  ザックを背負った瞬間に腰に違和感が走った。ここまで何とも無かったのに何故だい。そして3歩歩いて股関節にも違和感。きっと移動で座っていた時間が長かったせいだろう、歩いて体がほぐれてきたら治るだろうと言い聞かせ、河童橋のお店には目もくれず進む。幸い股関節の違和感は30分もしない内に消えていった。腰の違和感は最後まで続いたが、腹に力を歩いていれば歩行に影響はなかった。まずは一区切りとなる横尾を目指す。  横尾までは下山してきた登山者と多くすれ違う。日本にこんなにも多くの屈強な男子たちがいたのかと驚くほど、大柄な男性の姿が目立つ。なんだか自分が場違いな山に入ろうとしているのではないかと心細くなる。すれ違う人の中には足を引き摺っている者、腕を骨折している様に見える者、重症な日焼けをしている者が何人もいた。これまた全員が体格のいい男性ばかり。あなたがたがそれでは私はどうなりますのと、不安が募る。一方で、上高地の山々の美しさに目を奪われつつ、多幸感を同時に感じる。雲一つない青空の下、この雄大な景色を写真に収めたい気持ちを我慢し17時までに小屋に着くため、横目でちらちらと景色を見ながら早歩きで進む。景色に見とれる度に足が突っ掛かる。雪のない場所での雪靴は歩きづらい。  横尾から先は除雪されていないため、雪道となる。アイゼンは装着せずにそのまま進む。雪の上を歩く事に慣れていないため、やたらとバランスが崩れて無駄に疲れる。S藤さんの助言に従い、小股で歩くと収まった。気を抜くと先を急ぐ気持ちが出てしまい、ついつい大股で歩いてしまうので、「小股、小股」と繰り返し口に出しながら歩く。  予定時刻に槍沢ロッヂに到着し受付を済ませる。とてもきれいな小屋である。時間は終わっていたが、お風呂があるという。驚いた。お湯も電源も無料。トイレの床がピカピカに磨かれていて感動する。2階へ上がる階段の壁に年代物のピッケルが展示されている。K場さんのピッケルも飾れるね、などと笑う。  17:45の回に夕食を頂き、その後談話室でS藤さんの持ってきてくれたウィスキーを頂きつつ、おしゃべりを楽しむ。でも何を話していたかは一個も思い出せない。この小屋はストーブが焚いてあり、小屋中が暖かくて心も体も弛緩させてくれる。明日の4時出発に備え、20時前に布団に入る。

5月4日(快晴) 槍沢ロッヂ(4:05)―ババ平(4:45)―殺生ヒュッテ(8:30)―槍ヶ岳山荘(9:40)―槍ヶ岳山頂(11:10)―槍ヶ岳山荘(12:10)―槍沢ロッヂ(15:10)

槍ヶ岳登頂に緊張と興奮しているせいかなかなか寝付けず、ウトウトしては1時間毎に目が覚める。隣のS藤さんはいつも通りスヤスヤと寝ていて羨ましい。21時半頃トイレに行った際に外に出て星空を見上げる。美しい。2:50にセットしたはずの目覚まし時計が1:50に鳴り、飛び起きる。ばかたれ。1時間ほど悶々とし、4時出発に向けて談話室でヘッドランプの明かりの下、朝食とパッキングを済ませる。  風もなく暖かい朝。今日も朝から雲一つない。雪も締まっていてアイゼンがよくきいている。前日にあった腰の違和感も今日はない。夜中頭の血管がどくどくと鳴ってうるさかったのでロキソニンを飲んだのが効いているのかもしれない。15分程歩くと樹林帯を抜け一気に視界が開ける。大きな谷だ。冷たい風が吹いている。この谷筋をひたすら進んで、槍ヶ岳を目指すのですね。左右に聳え立つ尾根の斜面には表層雪崩の跡。初めて見る雪崩の跡にビビる。デブリとデブリの隙間がないではないですか。これではこの先、安心して休憩できる場所はないということですかね。左右の斜面から目が離せない状態で進んでいると、モルゲンロートが現れた。まさかこんなところで見えるとは。見えるものなのか。そうだったのか。嬉しい。さっきまでデブリが気になって仕方がなかったというのに、赤く照らされる岩肌の神々しさに一瞬で心を奪われてしまう。山の日の出はいつだって美しい。こんな広大な景色を独り占めしていいものだろうか。

槍ケ岳2
↑モルゲンロート!  (2019年5月4日撮影)

 2,500m付近までは傾斜も緩やかなのでコースタイムよりも速いペースで歩を進める。 その先は高山病の症状が出て、ペースがガタっと落ちるのは分かっているのでその分標高の低いところで頑張っておきたい。  先に見えるあの岩まで歩いたら休もうと思って歩くのだが、広大な景色の中で見つける小さな目標なので、進めど進めどその岩には近づかない。遠ざかってさえいるのではないかとさえ思える。ずっとその繰り返しだった。それでもやはり小さな目標は長い道のりを歩く支えになる。

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↑この先は傾斜が急だ!  (2019年5月4日撮影)

 殺生ヒュッテが見えた辺りから傾斜が徐々にきつくなってきた。2600mを超えてきたのだろう。息も上がり頭の血管がどくどくといっている。炎天下と強い照り返しでシャツの下の皮膚がじりじりと焼けているのが分かる。なんて強い日差し。なんて青い空。高山病の症状を悪化させないために小まめに水分補給をしながら半歩、半歩と登り続ける。後ろを歩くS藤さんは息一つ上げていない。「余裕」という言葉にお釣りがくるほど涼しい顔をしている。きっとこの景色も存分に楽しめているのでしょうね。口を利く余裕も景色を楽しむ余裕もないけれど、せめてこの美しい景色を写真に残したいので、いいポイントでS藤さんに写真を撮っておいて下さいとお願いする。

槍ケ岳5
↑殺生ヒュッテ付近の急登!  (2019年5月4日撮影)

 殺生ヒュッテを過ぎると槍ヶ岳山頂が見えてきた。気高いお姿で鎮座していらっしゃる。山頂が見えてからの道のりも長かった。より一層傾斜がきつくなり、男女7人組くらいのパーティーの中の女性一人が倒れて吐いている。途中から大体同じペースで登っていたパーティーだったが、この女性だけ最初から辛そうだった。どうするのだろうか。人の心配をしている場合ではない。とにかく先を目指す。頭痛は激しいが、幸い吐き気はない。それにしても山荘直下の傾斜がすごい。壁のように聳え立っている。全然ウェルカムされていない。夏道はこの斜面をジグザグに進むらしいが、雪がある時期は直登できる。私だけジグザグに進むわけにはいかないですかね、と聞きたくなる。S藤さんが後ろから「半歩でもいいから足を前に出せ」と励ましてくれるのでがんばる。3歩出しては一呼吸、を繰り返して進む。傾斜がきつすぎて休憩をとれる場所は山荘までない。後のニュースで知ったことだが、同日33歳女性が2800m付近で滑落し足の骨を折る大怪我をしたそうだ。ちょうどこの辺りだろうか。確かにここで滑ったら、ただじゃ済まなそうです。  体力気力を使い果たし、なんとか槍ヶ岳山荘に到着。30分で準備をして山頂を目指そうと、S藤さんは意気込んでいる。まことに元気でござる。私はといえば、気力だけでやっとこさここまで来られたので、穂先の往復に必要な体力気力集中力の回復を待ちたいところだ。正直穂先への興味さえ失ってしまってる状態。今は見ないほうがいい気がして穂先を視界に入れないようにして、全力で休憩する。トイレに行ったり山荘でお水を買ったりうだうだ過ごした。まずは休息をとってやる気の回復を待つ。元気なS藤さんには申し訳ないが、穂先で集中力が切れる方がまずいと割り切り、図々しくもかれこれ30分以上放心する。徐々に元気が戻ってきたので穂先に目を向け、はしごや鎖の切れている箇所を確認したり、降りている人の様子を伺う。登りは大丈夫そうだ。下りは体が固まりそうな箇所は何個か見当たったが、確保してもらえば降りられそうだ。大変お待たせ致しました。

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↑確保用の補助ロープを準備!  (2019年5月4日撮影)

 ハーネスなど必要装備を装着しいざ穂先へ。足元は岩と雪のコンビネーションだが、雪はそれほどついてない。慎重に行こう。登り始めて1分経たずに気づいたことがある。アイゼンを履いての岩場が初めてである。なんじゃこりゃ。どうすりゃいいんじゃ。そしてなんで今の今まで気づかなかったのか。いや、気づいていたら来ていないからこれでよかったか。足元を安定させたいところだが、大変不安定である。足元が落ち着かない分、不本意ながらも手に頼って登っていく事にする。掴んだ岩が剥がれませんように。体が小刻みに震える。着実な一手一足しか取っていないので、大丈夫な事は分かっているのだが、よくわからないこの状況に震える。なんだかすごい高い所にいる。槍ヶ岳の穂先に張り付いている。本来は高い所もそこからの眺めも大好きなので、是非ともこの景色を見ておきたい。さっきから視界の端にすごい景色がちらりと入っている。万が一、怖いスイッチが入ってフリーズしてしまうと困るので、景色を見たい気持ちを抑えて次の一手、次の一歩に意識を集中させる。折角はるばるここまで来たというのに、200円の作業用グローブと岩しか見ていない。集中力が切れない様に、息を付けるところで深呼吸をしながら登り、山頂到着。喜びは正直なかった。なぜなら下りの方が断然怖いから。

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↑山頂に登る最後のハシゴ!  (2019年5月4日撮影)

景色がすごい事は理解した。とにかく全部見える。多くの人が訪れるわけだ。防寒用にレインウェアを羽織ってきたが、風もなく暑いくらいの穏やかな山頂だ。

槍ケ岳8
↑山頂でお決まりの記念撮影!  (2019年5月4日撮影)

下りの心配さえなければここで踊って喜びたいところだけれども、なんせ心配。登りながらも下りで注意すべき箇所をチェックしていた。動けなくなってしまいそうな嫌な雰囲気のポイントが2か所あった。梯子も鎖もないので、確保してもらいながら下りたい。下りの順番待ちをしていざ緊張の下り。S藤さんとザイルで繋がっているので絶対に落ちられない。私の方が100倍も経験不足のくせに、人とザイルで繋がることの、なんだろうこの不安感。自分のせいで人が死ぬのも嫌だし、人の道連れで自分が死ぬのも嫌だ。なんとも勝手な言い分である。S藤さんはどんな気持ちだろう。こんなに不慣れな人とザイルで繋がりたくないよね。申し訳ない。絶対に落ちませんので。登りでチェックしていたポイントでやはり確保のお願いをして、無事に下ることができた。これでザイルがなかったらフリーズしていたのだろうか。それとも覚悟を決めて下ったのだろうか。ザイルがあったので分からない。緊張が解けて、ようやく登頂の喜びを感じる。S藤さんも今日一の笑顔だ。そうだよね。いつも面倒ばかり見てもらって申し訳ない。  行動食をしこたま食べて、下山開始。と思ったらS藤さんがあの急斜面の縁に立ち、ここから尻セードするよと言うではないですか。マジすか。尻セードすること自体まだおっかなびっくりのベイビーがこの急斜面をですか。怖がって出来ないもんだから歩いて下っていると、S藤さんが横でほら、大丈夫だよと見本を見せてその気にさせようとしてくれる。健気である。歩いても下れるのに、今日はもう怖い事したくない。閉店です、なんて思っているのだけれども、S藤さんのその姿が、親鳥がヒナにこれ食べれ、ここに虫がいるからつついてみ、と促す様子に重なって笑ってしまう。死ぬほど滑らない事もわかったので、閉店したシャッターを開けることにした。滑落停止訓練ではピッケルが太ももに当たって痣だらけになってたっけ。あれ本番でやったらピッケル足にささるアルヨなんて思いながら恐る恐る尻セードで下る。

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↑槍ケ岳山荘直下の斜面で尻セード!  (2019年5月4日撮影)

コントロールをできる自信が全くないので、S藤さんにはくれぐれも私の前に出ない様に念を押す。S藤さんに突き刺さりたくない。怖がりすぎてスピードを出さないことを度々指摘される。えぇ、ブレーキ全開にしてますもん。怖いんですもん。この斜面で尻セードにトライしてる事を奇跡だと思って欲しいわ、と心の中で毒づきS藤さんの指摘は無視する。おかげさまで腕がパンパンです。徐々に慣れていき、積極的に尻セードをしながら下る。といっても山荘直下の急斜面以降、尻セードで下れる場所も徐々に減っていく。膝の具合と相談しながら下る。

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↑槍沢を下る途中、振り返る!  (2019年5月4日撮影)

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↑槍沢を下る!  (2019年5月4日撮影)

横尾まで下れたらラッキーと思っていたが、槍沢ロッヂ到着が15時。横尾、上高地方面には積乱雲が出ていたこともあり、ここで2泊目とする。  救助隊の男性2人がやってきた。何かあったのか、なかったのか大変気になるところだが、職務の邪魔をしてはいけないので何も聞けない。  夕食17時前にお風呂の時間がある。信じられない程の量の垢の浮いた湯につかる。ありがたい。お風呂があると知らなかったので、タオルを持ってきておらずティッシュで拭う。S藤さんはちゃっかりタオルを持ってきていたな。借りればよかったなと思いながら、体に張り付いたティッシュを剥がす。どんなお湯でも山の後のお風呂は最高じゃ。今夜も夕食の後にウィスキーを舐めながら反省会をして19時前に就寝。緊張も解けて、翌朝4時まで熟睡できた。

5月5日(快晴) 槍沢ロッヂ(5:45)ー横尾(7:50)ー上高地バスターミナル(11:10)

 4時半起床。スキーを担いだ若めの男女5人組は今日も5時前に出発している。すごい体力。本当に好きなんだな。一日何回滑るのだろうか。私も将来スキー板を担いで山を登ることがあるのだろうか。小柄な女性の逞しい後ろ姿に、いつかの自分を重ねて見送る。荷物をまとめて5時の朝食を待つ。  朝食の席で昨日救助された男性の父親と一緒になった。控えめな私たちはその話題には触れられないが、他の宿泊客と話しているのをS藤さんと共に耳をダンボにして聞いた話がこれだ。槍沢キャンプ地に戻ってきたら息子の足が動かなくなり、救助を要請する運びとなった。父親は70代くらいだろうか。カメラマン親子で、夜中から明け方にかけて撮影をしていて睡眠不足の中一日歩いたからではないかなどと言っていた。無事でよかった。  食後にゆっくりとコーヒーを飲みながら今日も澄み渡る青い空を仰ぎ見る。気温は0℃だが、とても暖かく感じられる。救助隊の男性が山荘前に出て皆を見送っている。無線らしきもので何かを話していたりする。カッコいい。人を助けられる立場でいるための鍛錬がにじみ出ている。眩しい。  身支度を整え、予定より15分早めに出発。救助された男性の父親も同時出発だった。歩荷並みの荷物だ。本格的な撮影機材や年季の入ったスコップがザックに刺さっている。ずっと山の写真を撮ってきているのね。横尾までアイゼンを装着する。雪が締まっていて、往路で歩いた時よりも随分と歩きやすい。同じ道でも雪の状態でこんなにも変わるのね。横尾に近づくにつれ、所々雪が切れている箇所もあるがそのまま進む。静かで美しい朝。一ノ俣の手前に槍ヶ岳が最後に見えるポイントで記念撮影をして横尾までもうひと頑張り。昨日の登りで擦れた踵が痛い。下りだから大丈夫だろうと高を括っていたが、平坦な道になるとかなり痛む。  横尾に到着してすぐに靴擦れを起こしている踵に絆創膏を貼る。皮がベロンチョしている。道理で痛かったわけだ。朝ごはんをおかわりしたというのに、体が燃焼モードになっているようで、食べても食べてもおなかが空く。  横尾から先はペースを上げるために、S藤さんに先に歩いてもらう。付いていくのに必死だが、早く上高地に着けるのは嬉しいことなので頑張る。往路は時間に追われていて景色を楽しむ余裕がなかったが、今日は雄大な景色を横目に、こういう美しい自然やその景観がこの先何世代も先も残ってくれるといいな。日本中の人にこんな美しい景色をみてもらいたいなぁなどと感慨にふけったりする。

槍ケ岳12
↑横尾からBTに向かう途中、山々を振り返る!  (2019年5月5日撮影)

徳澤、明神と小休憩をはさみ、相変わらず食べ続け11時に河童橋を通過する。観光客でごった返した河童橋付近では、さっきまでの思いもすっかり忘れ、山を下った後の人混みは殊のほかツライ、などとぼやく。ほどなくして上高地バスターミナルに到着し、11時半のバスの整理券をもらう。S藤さんに引っ張ってもらって正解だった。私のペースではとてもこの時間のバスには間に合わなかった。  今回は、1泊目を槍沢ロッヂにしたことで翌日の山行に余裕ができて、2日目は4時出発したことで、歩きやすい状態の雪の上を進む事ができた。私の力量をよく考慮した上で立ててくれた計画に感謝。S藤さん一人で行っていたらもっと楽に、もっと早く行き来できたであろう槍ヶ岳。S藤さんに恩返しは出来ないけれど、私もいつか誰かを山に連れていけるようにならないとね、と背筋が伸びる思いがした。  あー、楽しかった。体力は消耗しているはずなのに、山に行くと元気になるのはなぜだろう。毎度不思議に思うが、決まって元気になる。次はどこに行こう。